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「デザイン思考」とは何なのか、学ぶ意味はあるのか、みんなで寄ってたかって調べて考えた


2020年東京オリンピックのロゴ問題や新国立競技場の問題により、図らずも「デザイン」というキーワードが熱く着目されたこの数週間。私達T3(当研究会)のメンバーも別の意味で「デザイン」に着目しておりました。

槇英俊東京2020年組織委員会マーケティング局長と東京オリンピックエンブレムに関する記者会見に臨んだエンブレム製作者の佐野研二郎氏

(日刊ゲンダイWebサイトより)

ここ数年、「デザイン思考」が認知度を高めつつあります。T3でも「なんかすごいらしいよ」という話が出つつも「でも内容がよく分からないよね」との声も多かったため、2015年6月度の定例会において、一度全員で調べてくることにしました。

T3では毎月様々なテーマを研究していますが、しばしば特定のテーマについて「各自で調べてきて定例会で1人ずつ発表する」というアプローチを取っています。

各自で本・ネット・識者などからのインプットを得て整理・検討し、定例会当日に3~5分ずつプレゼンする。そのうえで質疑応答や意見交換する。これにより「デザイン思考とはこういうことではないか」というアイディアが数多く集まり、多面的・立体的な理解を可能にします。

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(メンバーによるプレゼン資料(一部))

以下、そのプレゼンの中で挙げられた内容をふまえしつつ、「デザイン思考」の概略やポイントを説明していきます。


【はじめに、「デザイン」とは「問題解決」のことである】

デザイン思考を理解するためには、まず「デザイン」の定義を確認しておく必要があります。一般に「デザイン」というと、「この花瓶は、美しいデザインだ」とか「このロゴのデザインはダサい」というように、美しい・カッコいい・ダサい…といった美的基準を念頭に語られることがほとんどです。

しかし、「デザイン思考」が意味するデザインや、ビジネスにおけるデザインは「問題解決」の要素を多分に含んでいるようです。たとえばこの製品(アングルドメジャーカップ)をご覧ください。

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(Amazonより)

通常、計量カップに入った液体の量を正確に確認するには、屈んで真横から見る必要があります。ちょっとした動きではありますが、背の高い方や腰を痛めている方には不便であり、ないに越したことはありません。そこで、アングルドメジャーカップは、「真上から量が分かるデザイン」を考案したことで、その不便な問題を解消したわけです。

実際、私も所有していますが、もう普通の計量カップには戻れないほどの便利さです。

このように、「デザイン」は問題解決を多分に含んだ取り組みであり、それゆえ「デザイン思考」は、絶えず新製品・サービスを提供していく必要のある企業経営や、問題解決が仕事の本質であるコンサルタントの業務との親和性の高さがあるのだと思います。

実際、「デザイン思考」は、「デザインによるコンサルティング」を標榜するIDEO(アイディオ)というアメリカのコンサルティング会社から生まれたアプローチです。

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( Amazonより)

デザイン=美的と捉えているうちは、デザイン思考を理解することはできません。まずは「デザイン=問題解決」という前提を抑えておいていただければと思います。

「デザイン思考:人間中心デザインに基づいたイノベーションを起こすための、主として非デザイナーを対象とした発想法である。目的の一つとして、デザイナーの発想法やツールを誰でも使えるようにすることで、幅広い問題解決を可能にすることが挙げられる。ここで言及されるデザインとは、見た目の色合いといった表現に限定されるものではなく、現状をより良いものに変えていくという広義の意味でのデザインである」(wikipediaより。「イノベーターズ」という書籍からの引用のようです)


【デザイン思考を実践する5つのステップ(計量カップの例)】

前述のwikipediaのとおり、「デザイン思考」とは「デザイナーの発想法」のことです。そして、その発想は以下のステップを踏むとしています。

Step1:共感(深いニーズを知る)

Step2:問題定義(問題点とゴールを定める)

Step3:創造(アイディアを生み出す)

Step4:プロトタイプ(アイディアを形にする)

Step5:テスト(アイディアを評価する)

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(フォーブスWebサイトより)

先ほどのアングルドメジャーカップの誕生までをこのStepに当てはめてみましょう(これをデザインした方が「デザイン思考」を知っていたかどうかは分かりませんが)。

Step1:共感(深いニーズを知る)

⇒計量カップのユーザーがどのようにカップを使用しているか、どのようなところで困っているかを観察やインタビューを通して把握する(簡単に書いていますが、ここには様々なノウハウや手法があります)。

なお、この「人間(ユーザー)中心の発想」が、デザイン思考における「核」であると感じています。後続の問題定義も創造もプロトタイプも、そもそもユーザー視点での観察を通して見出したものでなければ、単なる独りよがりに終わります。

Step2:問題定義(問題点とゴールを定める)

⇒「量を確認するのに屈むのが苦痛」である点を問題点を定義し、「屈まなくても量が分かる計量カップを作ること」をゴールに設定する。

Step3:創造(アイディアを生み出す)

⇒ブレストなどを通して問題点を解消するアイディアを出す。

Step4:プロトタイプ(アイディアを形にする)

⇒Step3で出たアイディアの実効性を確認するため、試作品を作ってみる。

Step5:テスト(アイディアを評価する)

⇒試作品を実際のユーザーに使ってもらうなどして、アイディアを評価する。

5つのStepを見て「こんなものか」と思われた方もいるかも知れません。デザイン思考という言葉に、なにかすごい魔法のツールのようなものを期待していたとしたら、ちょっと肩透かしを食うかも知れません。

なぜなら、これらのステップは、企業や人によっては既に以前から実践しているものだからです。たとえば最初の「共感」は、ユーザーを観察して製品開発に活かしている企業は以前からありました。また、情報システムを開発する際に、初期段階で試作品(プロトタイプ)を作ってから検証することも珍しくありません。

よって、私も「これのどこが新しい思考法なのだろうな」と疑問に思っていました。

しかし、デザイン思考の真髄は、このStep1~5を高速で繰り返す点にあります。従来型の思考では、事前に慎重に緻密な計画を立てて、後工程の失敗を減らしていくことに主眼が置かれていましたが、デザイン思考は「多く失敗し、多くのことを学ぶこと」を重視しています。計量カップの例も、上記では1サイクルで完結していますが、実際には多数のアイディアやプロトタイプが作られたはずです。


【デザイン思考を自分のものにする上での「スピード感」という壁】

ということは、デザイン思考の習得の難しさは、この「スピード感」にあるのではないでしょうか。

たとえば、野球のスイングにおいて、様々な理論を頭で学んだとしても、それを本番の一瞬で1個1個思い出しながら実践することは不可能です。事前に素振りを繰り返し、理論をすべて身体で覚えておくしかありません。

それと同じで、デザイン思考の効果を実感したいのであれば、デザイン思考の手順や技法が「短時間で反復できるくらいに」身についている必要があります。デザイン思考の内容自体はそれほど難しくないと感じましたが、デザイン思考をきちんと習得しているという方や活用しているという方をあまり見かけないのは、そこに理由があるのかも知れません。

もし本気でデザイン思考を身につけようと思うのであれば、覚悟を決めて時間を確保して、実践のサイクルを何回も回していく必要がありそうです。「デザイン」というカッコイイ言葉がついているわりには、習得までの道のりは案外地道で泥臭いようです。


【デザイン思考は身につける価値があるの?】

「時間を確保して」と述べましたが、それではデザイン思考は、その投資(習得のためにかけた時間)に見合うほどのリターンを得られるメソッドなのでしょうか。

これは私は“YES”だと感じています。また後日に投稿しますが、T3では7月の定例会において「共感」の部分の実践にチャレンジしました。具体的には、メンバーの1人が料理をする様子を観察し、そこから新しい調理器具を考えるというワークを行ったのですが、利用者の立場に立ったアイディアが出しやすくなることを体感しました。

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また、現在、当Webサイトをいろいろと見直していますが、それもその実践を通して出てきた改善策を形にしている過程です。デザイン思考を採り入れることで、利用者の視点に立った改善が進められていると感じています。

昨年度はセミナーの開催に向けてロジカルシンキングを深く研究したT3ですが、それと相互補完する形で我々の「考える力」を高めるものと感じています。今後、さまざまな研究活動を行っていく中で、随時デザイン思考のアプローチを取り入れて、メンバーへの定着化を図りたいと思います。(できれば、セミナーなどを通して、その成果を皆さんにシェアしたいですね)

また、デザイン思考の思想と真逆の風土をもつ組織であれば、それだけデザイン思考を身につけがいがあるでしょう。つまり、「共感」や「プロトタイプ」といった言葉と縁が薄い組織です。T3メンバーの1人がユニークな整理をしていたので一部ご紹介します。

◆◆デザイン思考がない組織◆◆◆

・共感(のない組織):
>経験則だけで決めつけで語る。
>自分は顧客のことをよく理解っていると思い込む。

・創造(のない組織):
>自由に発言できる雰囲気がない。
>結論ありきであり、アリバイ作りのためだけに意見を集める。

・プロトタイプ(のない組織):
>9割がたできたものを見せて「もうこれでいくから」と言われる。
>暫定で出した案がいつのまにか既成事実になってしまう。

もしみなさんの組織にてこういった事象が起きているようであれば、ぜひデザイン思考の導入を検討してみてください。一部分からの導入だけでも、成果が出始めるはずです。

前述のとおり、次回は「共感」の実践について報告・考察いたします。お楽しみに!


【おまけ:奥出直人氏の本は上級編】

やや余談ですが「奥出直人氏の書籍を読んだがよくわからなかった」という声が、複数の研究会メンバーから共通して聞かれました(笑)。私も少し読んでみたものの、難解・アカデミックと感じました。

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(Amazonより)

ただ、デザイン思考を学ぼうとするとよく出てくる名前であり、日本における当領域の第一人者のようです。デザイン思考のより正確な理解やさらなる習得のためにはいずれ触れていく必要がありそうです。ただ、何も知らない初学者からいきなり触れると「デザイン思考ってよく分からん」で終わってしまうリスクがあるので、これから勉強される型は注意したほうがよさそうです。(以上)